弁護士 豊崎寿昌

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「逮捕までするとは」とは

2007年10月16日

「逮捕までするとは」とは

奈良県の放火事件の少年を精神鑑定した医師が、供述調書を漏洩した疑いで奈良地検に逮捕された件ですが、マスコミは、取材源という身内の問題が絡むからか、全般にかなり否定的ですねえ。

朝日は16日付で社説まで書いてます。

少年調書流出―逮捕までするとは

こうしたプライバシーの保護と表現の自由という二つの価値がぶつかりあう問題には、捜査当局は介入すべきではない。奈良地検が医師や筆者の家宅捜索をしたときに、私たちは社説で、そう主張した。

刑事罰を科すようなことになれば、この事件にとどまらず、取材や報道に大きな影響を与えかねない。そうした心配はいまも変わらない。

まして、医師は任意の事情聴取に対し、容疑を認めていた。その間も、勤務先の病院で診療を続けていた。地検は「真相解明に必要」と言うが、逃亡の恐れなどはなく、今回の逮捕だけをとっても、行きすぎだと言わざるをえない。

(中略)

取材源を守れなかったという落ち度があるとはいえ、このまま医師が起訴されていいわけがない。取材協力者もメディアも萎縮(いしゅく)し、報道の自由、ひいては国民の知る権利が脅かされることになりかねないからだ。さらに筆者が「身分なき共犯」で立件されるようなことになれば、その心配はいっそう大きくなる。

ま、調書を引用して出した筆者まで身分なき共犯で立件すべきかどうかは、評価の分かれるところでしょうが、精神鑑定をした医師が秘密漏示罪に当たるのは明らかで、これを立件するなと言うのは、マスコミのエゴでしょう。秘密に当たることでも取材目的での入手なら、取材側は正当行為とされる余地がありますが、取材される側まで正当化されてしまっては、結局守秘義務というものはほとんど意味をなさないことになります。そのようなアンバランスな法解釈はいくら何でも成り立たないでしょう。

さらに私がひっかかるのは、この社説の「医師は任意捜査で容疑を認めているのに、逮捕までするのはどうか」という論調です。

一般論としては大賛成です。しかし、朝日新聞は、他の犯罪の場合も同じように論じているか。犯罪を認めているのに、捜査機関の便宜や、はたまた単なる見せしめ効果を狙ったような逮捕はまだまだ多く、裁判所もそのような逮捕・勾留を無批判に認める状態がまだ続いています。「人質司法」と言われるゆえんです。朝日が他の事件でも同じように必要性に疑問のある逮捕に対して批判の論陣を張っていたならば、一貫性はありますが、自分たちマスコミのお尻に火がついたときだけもっともらしく騒ぐようでは、単なるエゴとしか評価されないでしょう。

日時 :
2007年10月16日 23:19
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(とよさき としあき)

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  • 東京弁護士会所属
  • 由岐・豊崎・榎本法律事務所(東京・八丁堀1丁目)パートナー

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