安部総理の突然の辞任についていろいろと批判がされていますが、私も、報道されているように健康不安が背景にあったとしても、いくら何でもこのタイミングはないよなあ、という気がしています。
自ら内閣改造を行い、臨時国会を召集し、所信表明まで行って、さあ代表質問というタイミングです。野党も、閣僚も、官僚も、さぞやずっここけたことでしょう。
弁護士に例えれば、無理筋に近い訴訟を起こし、裁判官から「名誉ある撤退」に近い和解案を受け入れるよう進められたのにこれを蹴飛ばし、証人尋問に突入し、主尋問を行って、これから被告側代理人による反対尋問に立ち向かう、という時点で突如辞任したという感じでしょうか。当然、裁判官の心証は最悪でしょうし、依頼者は激怒するでしょうね。
安部総理の行動を見ていて疑問に思うのは、民主主義国家の首相であるはずなのに、「国民の負託」に応えるという意味での責任感がどうも薄いように感じられる点です。不祥事を起こした閣僚への対応しかり、前回通常国会の強行採決の連続しかり、安部さんは、「自分がやらねば」という気負いは感じられますが、それは何か個人的なレベルの思いにとどまっていて、「誰のために」やるのか、という点の意識が弱いようです。いくら安部さんがよかれと思い、歴史的には評価されると思った政策でも、議論を封じ、数の力に頼っただけの採決を繰り返してばかりでは、負託者である国民は理解できないでしょう。
参院選で惨敗しながら、続投を決めた点もそうです。いくら惨敗したと言っても、なお自民党に投票した有権者は相当数おり、安部政権を支持する国民も一定数いたのでしたから、安部さんは、その貴重な負託者の思いを大事にして政権運営をしていく責任があったはずです。それが、今回のようなタイミングでの辞任では、やはり自分の思いだけで続投にこだわっていた(だから勝手に気持ちが切れて勝手に辞任する気になった)ようにしか見えませんね。
無理矢理弁護士の話題に引きつけているようで恐縮ですが、弁護士だって、引き受けたはいいものの、いざ始めてみたら予想に反して負け筋の事件であったことが判明し、相手方代理人も手強く、裁判官も冷たく、にっちもさっちもいかなくなってしまいそうになる経験は誰しもあります。でも、だからといって、自分の気持ちが切れたことを理由に依頼者を放り出して辞任などはできません。そんなことをしたら、依頼者から懲戒請求を受けかねませんしね。
一方で、肝心の依頼者との信頼関係が切れてしまえば、残念ながら辞任せざるを得ない場合もあります。私も、少年事件で、少年本人がある時期から急に私との面会を事実上拒否するようになり(どうも刑事に何か吹き込まれたらしい)、一方でご両親もコンタクトが取れなくなり(どうもお金を払うのがいやになったらしい)、やむを得ず審判3週間前を切ってから私選付添人を辞任せざるを得ないという悲しい思いをした経験があります(このときはたぶん裁判所には相当ムッとされたでしょう)。
このエントリーのトラックバックURL:
/blog/mt-tb.cgi/131