弁護士 豊崎寿昌

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主観主義刑法の時代?

2006年12月13日

主観主義刑法の時代?

Winny開発者に対する著作権法違反被告事件で有罪判決が出たようですが。

「Winny」開発者の金子勇氏に罰金150万円の有罪判決

京都地方裁判所は13日、ファイル交換ソフト「Winny」を開発し、著作権法違反幇助の罪に問われていた金子勇氏に対して、罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。
判決では、Winnyについては「それ自体はP2P技術としてさまざまな分野に応用可能な有意義なものであり、技術としては価値中立的なもの」とした上で、こうしたソフトウェアの開発・提供が幇助として問われるかどうかは、現実の利用状況や本人の認識によるという判断基準を示した。

正犯の犯罪行為を助けたということで処罰される幇助犯というものは、もともと処罰範囲の限界が曖昧なものであり、適用には慎重であるべきです。その危険性を顧みず、有罪という結論を導いてしまった裁判所の価値判断自体も疑問がありますが、その理屈もおかしなものです。それ自体は価値中立的な技術を開発する行為が、本人の認識によって犯罪になったりならなかったりするという理屈ですが、弁護団のコメントどおり、「高速道路でみんなが速度違反をしていることを知っていたら、国土交通省の大臣は捕まるのか」という批判が当てはまってしまうでしょう。

この判決の理屈のおかしなところは、ある行為の違法性を判定するのに、行為者の主観面を問題にしているところです。基本的に主観面は故意があるかどうかの側面で検討すればいいものであり、違法性はあくまで行為の客観的側面から見て検討すべきだということは、刑法の大原則として誰もが習う理屈です。刑法は、行為者の内心そのものを処罰するものではなく、悪しき結果に基づいて悪しき行為を処罰するものだからです。

金子氏が、著作権法違反の実態を知らないでソフトを開発すれば(故意がないのではなく)そもそも犯罪を構成せず、従って有用なソフトの開発を行ったと評価されることになり、逆に実態を知って開発すると、突然犯罪とされるというのでは、いくらなんでも納得がいかない理屈でしょう。量刑が罰金刑にとどまることや、検察官の主張する動機面を否定した事実認定からは、裁判所としてかなり躊躇があったと思われますが、だからといって、死に絶えてしまったはずの「主観主義刑法」が突然復活したかのような、お粗末な判決になってしまうのでは批判を免れないでしょう。

日時 :
2006年12月13日 23:23
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(とよさき としあき)

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  • 東京弁護士会所属
  • 由岐・豊崎・榎本法律事務所(東京・八丁堀1丁目)パートナー

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