マンション強度偽装事件は、もはやどこまで広がりをみせるか収拾がつかなくなりつつある観がありますが、発端となった姉歯建築士は、報道によれば「木村建設が仕事の9割だったので、無理なコストダウンを求められ、断ると発注先を変えると言われたため、生活のためにやむを得ず偽装を始めた」旨の供述をしているそうです。
この供述も、報道だけですからどこまで信じていいのか不明ではありますが、建築士に限らず専門家の一つの問題の側面を言い当てていることは確かです。
我々弁護士も、一つの顧客に頼りすぎ、例えば売り上げの大半が一つの顧客に由来するような事務所経営は大変危険であると言われています。例えば、特定の保険会社から来る事件を一手に引き受けていた事務所が、何かのきっかけでその保険会社から見限られたためにたちまち経営に行き詰まった話などを聞きます。
プロフェッショナルであることによる職業倫理を持つことは確かに重要ですが、倫理観だけでは飯は食っていけません。もし、関係を切られれば事務所の経営に、さらには自分の生活に響くほどの影響力を持っている顧客から、明らかに違法な事件処理を依頼された場合、どうするのか。弁護士の矜持を保って断ることができるのか、弁護士も人間ですので、転んでしまう方がいないとはとても言えません。
実際、バブルの際に投機的不動産取引に手を出して大やけどをするなどし、以後事務所経営やお金のために、いわゆる「筋悪」の依頼者の代理人をするようになってしまった弁護士や、果ては整理屋の手先になってしまって懲戒に遭う弁護士が続出した時期があります。
今後、弁護士の数が劇的に増加する状態の中で、間違いなく弁護士間の競争は激化します。健全な競争は必要だと思いますが、食えなくなった弁護士が、姉歯建築士と同じような心理状態に陥ってとんでもない犯罪に荷担しないかどうか、心配ではあります。
業界エゴ、と言われる危険を顧みずに言わせてもらえば、プロフェッションには多少の余裕が認められていることが必要なのではないかな、と思うのですが。
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>プロフェッションには多少の余裕が認められていることが必要なのではないかな、
得意先を分散させればよいのです。確かに少数顧客だけを相手にしていれば、いつも同じルーチンワークで、毎回打ち合わせの必要も少なく、意思疎通は万全で、効率的に仕事はできるでしょうが、得意先を失う危険を冒してまで「正義」を貫くことはできないでしょう。
弁護士や建築士に限りません。粉飾決算に加担した会計士、脱税の共犯になった税理士などは、皆、少数顧客だけを相手にしていたから、得意先の要求を断れなかったのです。
投稿者 Inoue : 2005年12月08日 12:42