既に新聞報道等でも大きく報じられていますが、本日、貸金業者の取引履歴開示拒否を不法行為とする最高裁判決が出ました。
この判決は、
「長期間にわたって貸付けと弁済が繰り返される場合には,特に不注意な債務者でなくても,交付を受けた17条書面等の一部を紛失することはあり得るものというべきであり,貸金業法及び施行規則は,このような場合も想定した上で,貸金業者に対し,同法17条1項及び18条1項所定の事項を記載した業務帳簿の作成・備付け義務を負わせたものと解される。」
とし
「債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。」
と、判示しました。
この判決で重要な部分は、貸金業者は、「契約の付随義務として」「信義則上」取引経過開示義務を負う、とされた点です。個人情報保護法を根拠にしているわけではありません(個人情報保護法による義務ですと、開示にかかる手数料を要求できたり、委任状や印鑑証明を要求したりと、不当な抗弁に使われることになります)。しかも、従来は、法律ではない金融庁の貸金業者向けの「ガイドライン」を開示請求の根拠にせざるを得ない部分があり、やや理論的に苦しい部分があると言われていた(本件の地裁、高裁で、開示拒否が違法ではないとされたのもそのせいだと思われます)ものを、ガイドラインに根拠を求めるのではなく、貸金業法の立法趣旨と契約当事者の立場に基づいた契約の意思解釈からすっきりと論じており、明快な法解釈の見本のような議論です。
いるんですよねえ、この事件のキャスコのような対応をする貸金業者。取引履歴を素直に開示すると、間違いなく過払い請求をされるとわかっているものだから、弁護士からの開示請求に知らん顔を決め込んで、訴訟を起こすとあわてて開示してくる。私は、どうせそんなもんだろうと見切って、開示拒否をされたらさっさと当てずっぽうで取引履歴を推測して過払い訴訟を提起しますが、正面から戦って、見事最高裁での歴史的判決を手にした井上弁護士には頭が下がります。