ゲートキーパー=門番ですが、ゲートキーパー問題と聞いて、何のことだかわかる方は相当の事情通でしょう。
これは、国際組織犯罪対策の一環として、弁護士・会計士・監査人・会社設立代理人などの専門職を国際金融システムの「門番(ゲートキーパー)」として、疑わしい取引の通報義務を課そうという動きです。マネー・ローンダリング防止のための規制を、銀行などの金融機関からこれら専門職に広げようとする動きとも言えます。
詳しくは、日弁連のこのページにかなりの情報があります。
しかし、この制度は、使われ方によっては、弁護士の負っている従来の守秘義務の内容を大きく変更してしまうおそれがあります。弁護士の仕事の変化の面だけならどうでもいいかも知れませんが、今までのように弁護士が秘密を守ってくれないとなると、依頼者は弁護士に安心して相談できなくなり、ひいては依頼者の権利も守られなくなるおそれがあります。
これは特に、刑事弁護の場面では厳しい現実となる可能性があります。刑事事件の被疑者、被告人が弁護人を依頼する権利は、憲法上も保証されたものですが、弁護人に全てを打ち明けた結果、通報されてしまったとしたら元も子もありません。
実際、現在既に制定されている組織的犯罪対策法は、ほとんどの重要前提犯罪によって得られた犯罪収益を、それと知って収受する行為を、犯罪収益収受の罪として処罰の対象としています。
すると、これらの前提犯罪を疑われている被告人から私選で刑事弁護を引き受け、弁護士費用を受け取ると、自らの受け取った弁護士費用のなかに犯罪収益が含まれていたことを知っていた場合には、犯罪収益収受の罪に問われる可能性がでてきてしまうことになります。そうなると、これらの被告人から視線で刑事弁護を引き受ける弁護士は事実上いなくなってしまい、これらの罪の被告人は私選で弁護人をつける権利を奪われたに等しいという結果がおきてしまいかねません。
テロ対策やマネー・ロンダリング対策は重要ですが、国家に対しての個人の権利を最も先鋭的なところで擁護するはずの弁護士に、通報義務を課すことは、個人の国家に対する自由の根幹を崩しかねない危険な選択である気がします。