つい最近もマイカルが申立をして、知らない人はいないんじゃないかというくらい有名な民事再生法ですが、この法律の特則である「個人再生手続」もこの春から施行され、大々的に宣伝している法律事務所もあるようです。
しかしながら、この制度、少なくとも普通のサラリーマンにはほとんど使い道がないのではないか?と思われます。
まず、鳴り物入りで登場した住宅ローン条項。保証会社が代位弁済して競売寸前でもローン会社に巻き戻しができるウルトラCとして注目されました。しかしながら、現実にできた法律の中身は、住宅ローンについては利息、遅延損害金(=延滞金)ともカットは一切認めない。認めるのは返済期間の延長だけといっても過言ではありません。しかもこの期間延長にしても、返済終了時の年齢制限があるため、現実には延長が不可能な場合も多々あります。
その一方で、民事再生の申立をするからには一度は全ての債務の返済を止めなければならないため、必ず延滞金が発生することになってしまいます。このカットが認められない以上、非常にリスクが大きい割に、成功の可能性や成功したことによるメリットが薄い制度と言わざるを得ません。
また、サラリーマンのための制度のはずの、給与所得者再生の制度ですが、この制度は普通の個人再生手続の中の特則という形になっています。普通の個人再生手続が再生計画の認可に債権者の同意(多数決)が必要とされているのに対し、給与所得者再生は同意がなくとも再生計画は認可されます。
しかし、そのためには別な条件があります。それは、2年分の可処分所得の額を3年で返済することが必要だということです。可処分所得とは、その人の所得から政令で定める生活に必要な最低限度の費用を除いた「家計の余裕」とでもいうべきもので、つまり3年間、「家計の余裕」の3分の2は返済に充てなければならないということです。
ところが、この「政令で定める最低限度の生活費」というのは、生活保護の基準と同様のもので、非常に厳しい額です。従って、可処分所得を計算すると、予想外に多額の返済を強いられることになる場合が多いです。これなら少しは期間が長くなっても、任意整理で返した方がいいんじゃないか、あるいは破産してしまえ、という結論に達する場合がほとんどと言っても差し支えありません。
かといって、サラリーマンなのに給与所得者再生の制度を使わず普通の個人再生手続を選択すると、前述のように債権者の同意が必要になるわけですが、債権者も給与所得者再生手続より明らかに条件が悪くなる再生計画に同意する可能性は小さくなるでしょうから、結局行き詰まってしまうことになります。
というわけで、現状ではサラリーマンの方に個人再生手続はあまりおすすめできない、と言うのが率直なところです。
なぜ、今日こんな話をしたかというと、先日まさに、「別な弁護士に頼んで給与所得者再生の制度を使って個人再生手続の申立をしてもらったが、いざ再生計画を立ててみたら、返済額が多すぎてとてもじゃナイがやっていけない、どうしよう?」という相談を受けたからで、くれぐれも過大な期待は禁物です。