つい最近、ネット上の掲示板の書き込みを巡っての判決が立て続けにあったこともあってか、総務省が「インターネットによる情報の流通の適正化に関する法律」案を準備中とのことです(本日の日経新聞)。
法案の内容は、被害者に対し権利侵害情報の削除と発信者特定の手段を与えるものということですが、発信者の同意が得られなければ裁判所に削除あるいは身元開示を請求ということです。
問題は裁判所が判断する場合の迅速性でしょうね。並の裁判並みに時間がかかるのでは法案の意味がありません。数日で判断が出るのでなければ意味ないでしょう。
また、発信者の身元開示はともかく、問題情報の削除に必ず裁判所の判断が必要なのかは少々疑問です。私の感覚からいえば、発信者の同意がなくても一定の要件(即時に削除しなければ回復不能な損害が生ずるおそれがある等)の場合は接続会社に削除義務を認めるべきではないでしょうか。その上で、不服のある発信者に逆に裁判所に異議申し立て権を認めるとかすればいいのではないでしょうか。
問題情報の削除は憲法で認められた表現の自由、特に検閲の禁止と絡む問題ですので、デリケートな問題を含むことは否定しません。しかしながら、ネットでの情報発信は伝統的な表現手段に比べ、遙かに低コストで強力な伝達能力を持つため、匿名性とも相まって名誉毀損的な表現やプライバシー侵害が気軽になされてしまう危険性を持っています。この点で伝統的な憲法学上の表現の自由論とは少し違う角度の考察が必要だと思います。むしろ、被害者のプライバシー権や名誉の権利が守られるべきではないでしょうか。
一方、発信者の身元開示は憲法21条2項後段の通信の秘密の保障の問題です。
通信の秘密には、発信者の身元情報も含まれることは当然ですが、表現内容の名宛人に対しても秘密であるべきかは疑問です。匿名で他人に対する表現をすることが許される場合はむしろ少ないと考えていくべきではないでしょうか。
あと、総務省についでに考えて欲しいのが、先日も触れた携帯電話でのいたずら電話やジャンクメールに対する対抗手段としての身元開示請求の手段。何とかしてくれないですかねえ。